放浪する建築家
東京・渋谷にある原のアトリエに入ると、一瞬、原自身が35年以上も研究していた、古代の村を訪れているような気持ちになる。 たとえば、入り口の道はとても狭く、肩幅の広い男性などは、脇にある道の方を歩くだろう、イエメン・ハジャラにあった石の要塞を思い出す。
その上、通る隙間も、そこらじゅうに生えている雑草で、わからなくなっているペルー・トラニパタの葦の浮島のような感じだろうか。そして、最後に階段を上がると、静かで落ち着いた場所にたどりつく。そこは、中国・福建の田螺坑土楼群にでも来たようだ。
原は、大きなデスクに座っている。机の上には、紙や本、鉛筆などでいっぱいだ。彼が煙草に火をつけると、紫煙がその白い髪へと昇っていく。まるで、現代のシャーマンか、往年のハリウッド俳優のようだ。壁には「梱包するアート」で有名な彼の友人、クリストの作品がかかっている。本当はクリ ストはもっと大きなものを包みたかったのだという。原のデザインした大阪の梅田スカイビルだ。 (40階建ての高層ビルが2棟、空中にぶら下がるような形のエスカレーターでつながっている)。しかし、資金援助が実現せず、クリストはやむなく友人のオフィスの電話を包むことにしたのだった。
ライフワークについての話になると、原は自分でも驚き、おかしいのだと言う。自らを1960年代の 学生運動の申し子と公言してはばからない原。そんな自分が京都駅や札幌ドームのような巨大な建築に行き着くとは。しかし、成功しても、彼はグローバルな放浪者、第三世界の漂流者という自らの人間性までは変えなかった。かえって、現代の都市の間違いは、古代の村の知恵を侵してしまったことにあるという思いを強くしたのだ。
元オーストリア大使、ユッタ・ステファン・バスルとの夕食会のときに、原はこんな話を披露した。大使の夫、ピーターも建築家で、世界中を旅している。「アフリカでは外国人を最初にチェックするのは、いつも子供なんです。そして、相手が悪い人間ではないとわかると、親にそれを言いにいく。そうやって私は彼らの家の中に入っていったんです」。その後、ピーターが打ち明けた 話を、原は忘れられない。「私たちはモーリタニアの砂漠の中を何日間も運転していました。運転手が―イスラム教徒でしたが―私たちを、離れた村にいる自分の家族に紹介したいと言ったんです。 おみやげに、袋に入った砂糖を車のトランクに入れて持っていったのですが、その隣には、自分たちの分として酒を何本かいれていました。ある日、そのビンが割れて、中の酒が砂糖にかかってしまったんです。運転手はパニックになって、大切なおみやげを投げ捨ててしまいました。私たちは結局手ぶらで村に着きました。彼の家族が持っているものといえば、生活のすべてを頼っている一匹の山羊だけ。しかし彼らは、その一匹の山羊をしめて、私たちをもてなしてくれたんです。本当に胸がつまりました」。
原はその話を聞いて、うなずきながらも、ほかの人と同じようにずっと黙っていた。彼は、自己犠牲が古代の村の与えてくれた知恵であることを知っていた。同時に、現代世界がそれを受け入れるのにはまだまだ時間がかかりそうだということもわかっていたのだ。
ローランド ハーゲンバーグ
RAIDING PROJECT展覧会
原 広司・カール・マイヤー
(2013年6月 オーストリアORFTVリポート)
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Three Travellers
(スリー・トラベラーズ)
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Raiding村の北東入り口に待ち合わせ場所、休憩場所として利用されている。
Photo: Philipp Kreidl
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みんなの集合場所として活用されている。
![](https://static.wixstatic.com/media/3c3fe5_0212145cb50941bba57239f6c915ad08.jpg/v1/fill/w_367,h_234,al_c,lg_1,q_80,enc_avif,quality_auto/3c3fe5_0212145cb50941bba57239f6c915ad08.jpg)
大地の芸術祭の里 2015春に展示
7月 26日(日)~ 9月13日(日):50日間
越後妻有アートトリエンナーレ2015のテーマ
人間が自然・文明と関わる術こそが「美術」